#9『ラスト・クリスマス(原題:Last Christmas)/ジョージ・マイケルを贅沢に使った王道ロマンス
巷ではハロウィン終わりからクリスマス商戦が過熱していたようですが、12月に入った現在、ラジオでもクリスマス曲が時折流れてくる時期になりました。マライア・キャリーの『All I Want For Christmas Is You』、山下達郎の『クリスマスイブ』、back numberの『クリスマスソング』など、世代ごとに思いつく名曲は多々ありますが、やはりワム!の『ラスト・クリスマス』は必ずこの時期に聴く一曲です。
Wham! - Last Christmas (Official Video)
『ラスト・クリスマス』は2019年公開のアメリカ映画です。監督はポール・フェイグ、主演をエミリア・クラーク(ケイト役)とヘンリー・ゴールディング(トム役)が務めました。
ロンドンのクリスマスショップで働くケイトは、一夜の恋に身を窶し、仕事に身が入らない荒んだ日々を送っていました。「クソみたいな人生」と自虐していたある日、ケイトはトムという不思議な男性に出会います。人生に深刻な問題を抱えているケイトに助言をするトム。徐々に惹かれていくケイトでしたが、トムには重大な秘密がありました。
クリスマス映画として、非常にありきたりなストーリーですが、音楽といい、細かなキャラクター設定といい、とても丁寧に作られているのが良いですね。最初のシーンで『Heal the Pain』を歌う聖歌隊に心が洗われた後、現在の落ちぶれたケイトのシーンに移る落差が、これまた凡庸ながら簡潔明瞭な導入でした。
主人公ケイト自身もそうですが、家族それぞれが問題を抱えているのにリアリティがあります。過保護で神経質な母親、夢を諦めてタクシードライバーとして生きる父親、セクシュアリティの問題を抱え、妹に嫉妬する姉、心臓移植後、自分を粗末に扱う主人公ケイト……。ブレグジット等タイムリーな情勢を取り入れつつ、自分の存在意義についてデリケートな問題を諸所に描いています。
使い古されたクリスマスストーリーを、ジョージ・マイケルの名曲を効果的に使用して、きっちりとまとめあげた映画です。大どんでん返しはありませんが、「生きていられることは幸福」「互いに助け合う」というメッセージが、現在の混迷した社会に染みる良作です。
(2019年/1時間42分)